夢幻の姫君
そんな私を見て思ったのか言う

「さっき、松嶋には妻子がいたと、言いましたね?」

うん。さっきそう言ったけど、どうしてもう一回言うの?

「彼女たちは、今。霧岬堅太郎の籍に入っています。彼は会社だけでなく妻子も取られたんですよ」

取られた? それって……

「貴女の従妹のいるところが敵、なんですよ。ちなみに名前は霧岬実柚(みゆず)。貴女と同い年の女の子です。だから貴女は非道になれない、と思ったんです」

従妹……そんな…。 酷い目になんて遭わせられない。ただでさえ家族をバラバラにされたのに。戻れたって、彼女は望まないかもしれない。だったら私が――――――

「そんなことはわからないじゃないか」

急にそんな声が響いた。黙っていた隼人が口を開いたのだ。
 隼人が口を開いたのが意外だったのか皆驚いている。

隼人は私に目を合わせながら続ける。

「話さなければ、わからない。満足しているのかもしれないし、苦しんでいるのかもしれない。お前がそれを決め付けるのは違う」

隼人の言葉は心に入った。確かに違う。でもどっちかなんてわからないじゃないか。

「会って話せば良い。それから決めたって遅くは無いんじゃないか?」

話す……。意思疎通の手段。話さなければ気持ちなんてわからない。
 彼女が何を思っているのかわからない、知らないじゃなくて、〝知ろうとしていなかった〟んだ。私は。

「そう、だよね。……ありがと。隼人。ちゃんと話す」

そう言った私に満足したように隼人は笑った。

「「「え゛」」」

怜、優、真琴が声を上げた。健人は声を出さなかったが目を瞬いている。

「えっ?」

「喋るのも珍しいのに、笑った……明日台風でも来るんじゃないか?」

真琴が信じられないというように、そう言った。

「え? 隼人、よく笑うしよく喋るよ?」

そう返したが、3人は呆けたままだった。そんな顔してもイケメンなんてムカツクなぁ。
 健人はニヤッとして、面白そうに隼人を見た。
だからなんでそんなに楽しそうなの、健人。
 隼人はそっぽを向いている。お父さんは笑っていた。
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