夢幻の姫君
「特室の桐生です。はい。変わってください」

そう言ったということは、お父さんは弟と話すつもりなのだろう。
 彼はこちらをちらりと見て、聞こえるようにスピーカーホンを押してくれた。

「響?」

確認するようにそう電話に問いかけると向こうから

『奏聖!』

元気な声が聞こえた。
 え、ほんとにオヤジなの? どっかの子供みたい…… そう思わざるえないようなテンションだった。 

 何かが絶対おかしい。次の瞬間さらにそう思うことになる。

「人様に迷惑かけてんじゃねぇ、この馬鹿野郎」

仕事場では敬語口調を崩さないお父さんが、喧嘩口調になったのだ。
 全員唖然。 口が引きつっている。

『奏聖ごめん!!ホンマごめんっ許してっ!!』

「お前そこで正座して見世物になるか、それとも言う事を聞いてこっちに来るか選べ。さもなくば……」

『そちらに行かさせて貰います!!』

ガチャッ

そうやってお父さんは電話を切った。 

「もうこれで大丈夫ですよ」

そう言って微笑んだ奏聖に誰も何も言えなかった。




 お、穏やかな人ほど怒るの怖いんだなぁと美羅は思った。


 美羅が怒ると性格変わるのは遺伝か、と隼人は納得した。


 この親子は面白いと健人は面白がっていた。


 この人たちでこの会社は大丈夫なのかと怜斗は不安になった。
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