夢幻の姫君
全員口をあんぐりさせて固まった。

「って、社長は?」

響のいまさらな発言に、苦笑した。

「そこ。美羅」

お父さんは冷たく言う。
 キミタチいったいどういう兄弟関係なの? 娘として心配だよ。

響が驚いたように声を上げる。

「えぇぇぇぇ!? 美羅? 奏聖の娘の? 赤ちゃんの時に会ったきりだけど、覚えてる?」

赤ん坊が覚えているわけないでしょーが。天然? いや、大概にしないと鬱陶しいなこういうの。
 奏聖に突っ込まれ、叩かれた響は頭にクエスチョンマークを浮かべる。

「え? でも名前違うよね?」

ホントに、もう。これホントに松嶋響ですか? って言いたい。私が聞いていた松嶋響という男は、冷静沈着で切れ者、時の流れを読む者とまで言われていた。

 全然そんな気がしない。やっぱりただの噂? いや、でも……。

考え込んでると、不思議な目をされた。そうか、質問されてたんだった。

「あ、あぁ。はい。桐生美羅、又はクラン・ブラウニングと申します。………最近は名ばかりですが」

 そう言ってちょっとへこむ。確かに最近何もやってないし、健人達に任せきりだし、敬って貰う意味無くない? と言うより私、必要なのかな? この会社に。

「うえぇ?!あの伝説のクラン・ブラウニング?!」

〝あの〟? っていうか〝伝説の〟? 何なんだ伝説って……
意味わかんないって顔に出てたのか、響が言おうとする。

「伝説って言うのは……モガッ」

言おうとしたところで、優に塞がれた。
 え? なに?

「話」

 何も聞かせないようにそう言った怜斗の方を見た。

「仕事の話、しましょうか」

怜斗は笑顔でそう言ったが、逆らえない何かが出ていた。
 れ、冷気が出てる気がするよ……。

隼人の方を見ると目を逸らされた。伝説は気になったが仕方なく

「ハイ……」

と答えた。
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