夢幻の姫君
「お前はいつも不安そうな顔をしている」

そんな事無いよ? みんないる時は楽しいよ?
 
 私の頭を撫でながら隼人は続ける。

「人と話すときは気づかれないようにしてるが、話し終わった後の顔。見たことあるか?」

 無いよそんなの。自分で、自分の顔を見るときはいつも同じ顔をしている。
確かに、話し終わった後は、寂しさを感じる事もあるけれど、それも稀だよ?

「もっと頼れ。その為に俺らは居るんだから。本音を言え」

〝その為に〟どうせ、恩返しだろ? 彼等を救った、ね。
もう、十分なんだけど……
でも――――

「本音、言っているよ?」

「違うな」

少しの反論も、即返された。
 少し驚いていると

「お前は、いつも言葉を飲み込んでいる。言いたげにしてるのに、何も言わない。物分り良くなくていいんだ。……言っても一人にならないから」

「どうして……」

どうして、分かるの? どうして言って欲しい言葉を知っているの?

「昔から……って少ししか覚えてないけど知ってるし、お前は分かりやすいからな」

その言葉に涙が溢れてきた。嬉しくて、我慢しなくていいって言われてるようで。

「ちょっ、おいっ。泣くなよ。……ったく、あの事件からお前は泣き虫になったな? それが本来抑えていたものかもしれないが」

頭を振るだけでバラバラと涙が落ち、説得力がなかった。
 
 ボタボタと涙を落としていると、隼人に抱きしめられた。

「ハンカチ無いから……我慢しろ」

それから、隼人の服につかまって声を殺して泣いた。
 隼人が背中を撫でてくれるのを感じながら――――――
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