夢幻の姫君
急いで満月学園に向かったが、少し遅れてしまった。
 能天気な真琴の見送りを受けながら、正門から走っていた。

しかし――――――

「な、何ここ……広すぎっ! 玄関までが遠い~~」

そう、普通は走って30秒足らずで玄関についてもいいはずなのに(うちの高校はどんなに足の遅い奴が走っても、10秒でつく)、全然つかないのだ。

 1分走って、やっと見えるってどういう事よ!!

「……あそこに、ロータリーがある。きっと、あそこまで車で行くべきなんだろう。
チッ………真琴のヤツ」

 ロータリーって……え? みんな車通学なの? 自転車通学とかいないの?
 
そんな私を見ながら、隼人が一言

「満月学園は、令嬢子息が集まる場所だ。だから自転車で来るヤツとかいねぇし、警備も万全になっている」

 れ、令嬢子息……なるほど、だから門のとこに警備員が居たのか。うん、納得。

「だから、あんなとこで、降りたら、ちょっと、変な、顔してた、んだ、ね」

 だんだん息が切れてきた。スカートは走りづらいし、靴はローファー指定だし。
隼人を見ると、涼しい顔をして走っている。息も乱れていなかった。

 息が、切れ切れの私を見て隼人が止まった。
そこで、何を思ってのかニヤッと口を歪ませた。

「かばん持て」

そう言って、私にかばんを押し付けた。

「な、なんで……ひゃぁ」

文句を言っていると、抱えられた。横抱き。俗に言うお姫様抱っこ、ていうやつ。

「もう走れねぇんだろ?」

そう言って、隼人は不敵に笑った。 図星だったので言い返すことも出来ない。

そうやって、恥ずかしい思いをしながらついた玄関で、隼人が

「力使って、移動すれば恥ずかしい思いをしなくて済んだのにな」

そう言われて、ハッと気づく。ヤラレタと。

 気づいたなら、教えてくれよ!!

そう思ったのは無理も無いと思う。
< 195 / 210 >

この作品をシェア

pagetop