夢幻の姫君
教室がし~んと静まり返ってしまった。
 え? だってさっき飯坂君が霧岬グループの? って言ってるからみんな知っているんじゃないの? まさか彼氏にだけばらしました、みたいな?

 いや、そのまさかだとしても、こんなに静まり返る理由はないし…………

いったい何が。

困惑していると、手を引かれて連れて行かれた。

「桐生さん。話があるので、場所を変えましょ?」

いや、いいですけど強制ですよね? クエスチョンマークついてるけど、強制だよね?

 飯坂君はまだしも、立花さんまで一緒なのはどうかな~と思うんだけど。
無視? 無視なの?

え? 屋上? 私こういうの初めてなんだけど……。

 やられたのは陰口だったり、教室だったり、ナイフ突きつけられたり………
あんまり出来ない体験をしたなぁ……思えば。

 犯人横にいますけど。

どうしたらいいか分からなくて、じっとしていると

「桐生さん。どうして私に執事がいると思ったの?」

何故か、強張った顔でそう言った。

「…飯坂君が、私に〝霧岬グループ〟の人?って訊かれたので、私はてっきり貴女がそういう関係の人かと……」

 調べた資料と、松嶋響本人から聞きましたなんて馬鹿正直にも言えないので、関連がありそうな話題を引っ張ってきた。

 それでも訝しそうに私を見つめるので、ポーカーフェイスを貫くが、背中は冷や汗が出てきそうだ。
 や、やばいよぉぉぉぉぉぉぉ。

「ふ~ん………よくそれでいるって分かったね? あそこは結構貧富の差が激しいって言うし。それに桐生って名前、お父さんから聞いたことあるんだけど」

「お父さんって?」

自分にされた質問をおいて、質問し返す。

「松嶋響よ。私の質問に答えて頂戴」

彼女の口からは、霧岬健太郎の名は出なかった。さて、どうするか…………。
 答えてよ!! と聞こえるが、言う訳にもいかず。
そもそも何故来ておいて何もしゃべらないのだろう? 立花菜々子。私を知っているはずなのに。
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