夢幻の姫君
 私はしょうがない、秘密を話すわと前置きしてから、ふっと思いついた嘘をいう。

「私、お父さんが特室にいるからと、周りの情報を教えられるの。安全のために。社長がわざわざ取り計らってくれて。だから私、大まかな事は知っているの。…………あの、この事は」

秘密にして。と言外に含ませた事を分かってくれたらしい。心の中で、ホッと息をつく。
 そのとたん、新たな来訪者が来た。

バンッ

「お嬢!! 急に呼び出すのは止めてください。私は暇じゃないんですよ!!」

そういって一人の男が入ってきた。
 そして、私を見て、目を見開いたかと思うと―――――

「あれ? お前、健人んとこのお嬢じゃねぇか? 覚えてるか? ヒノだ」

ヒノ? ん~。何か聞いた事あるな~ ヒノ、ヒノ、ヒノ………

「あっ! まさか健人と一緒にいた〝ぼんくら〟めぇ?」

古い記憶を引っ張ってくると、変な顔をされた。

「俺は盆暗じゃねぇ!! メイだ!!樋野明(ひの めい)だ!! 健人のヤツどんな教育してんだ……」

そうやってぼやいた事に反応したのは、実柚だった。

「お嬢? ……明、桐生さんを知っているの?」

明? あぁコイツが執事か。…………え?
 健人知っているって事はばれてしまうっ!!

「桐生? 特室の桐生か? 娘がいるとは聞いたことはあるが、でもコイツは――――」

ばれる!! そう思ったときだった。

「美羅?! お前何してんだよっ」

開かれていた扉から、隼人は走ってこっちに来た。

「隼人………」

相当間抜けな顔をしてたらしい、隼人の眉間に皺が寄った。
 
 その名に反応したのはもちろん樋野だった。

「隼人? 隼人って崎坂兄弟の双子の一人だろ? やっぱりお前―――――」
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