夢幻の姫君
「だまれ」

隼人がそう冷たい声で言った。
 樋野は一度黙ったが、また口を開こうとしたら

「喋るな。それ以上言ったら、こっちだって黙ってねぇから。【プロジェクトSHA】の加担者」

心臓が大きくドクンっと鳴った気がした。
 【プロジェクトSHA】? 久しぶりに聞いた。あの最悪な実験――――

ドクドクと血が流れ、感情が暴走する。頭痛がひどい。頭が割れそうだ。
 頭を抱えてしゃがむと、大丈夫だというように隼人が撫でてくれていた。

ホッとして、気持ち悪い感じがなくなって冷静になれた。
 冷静になって思うと、加担者が傍にいるって事はまさか―――――――

バッと隼人を見上げると、そうだというように頷いた。

「樋野、というのも恐らく―――」

「黙れ!!」

焦ったように前から聞こえた。驚いている3人がいるから、きっと樋野明のことは知らないのだろう。松嶋実柚でさえも。

 彼女は落とされたであろう。自分の無知さを知らされたんだろう。一番自分が知っていて、一番自分を知っていると思っていた人のことを知らなかったのだから。

「美羅」

そう優しく呼ばれて、隼人に視線を戻す。
 もう行かなきゃいけないのだろうか? 傷ついた彼女をおいて。

その気持ちが分かったのか隼人は

「俺は階段の前で待ってるから、言いたい事があるなら言ってから来いよ」

そう言って私から離れていこうとして、何か思い出したのか樋野に視線を向けた。

「あと――――――君の弟によろしくって言っといてね。自分がつかった実験動物(モルモット)を甘く見ているとさらに痛い目をみるよ。ってな」

そう言って先に行ったが、私はその言葉に引っかかった。弟、モルモット、プロジェクト……
 そうか………そういうことか。
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