夢幻の姫君
納得のいった私は、自分の携帯の番号を書いた紙を取り出して、実柚に渡した。

「真実が知りたかったら、ここに連絡を頂戴。つらくなったらでもいい。一人じゃなくてもいいから」

そう3人の前で言って、樋野に、いや〝新名明〟に近づいた。

「新名一家も、霧岬も私が潰す」

そう囁くと、バッとこっちを見た。やっぱり、という顔をしていたがこっちを見て俯いた。

「私は、貴方達を許さない。いつも自分の事ばかりで、他人の幸せを壊してもなんとも思わない」

そうやって、切ってから続ける。バツの悪そうな顔をしたが、そんなのは知ったことではない。

「貴方が彼女にどんな感情を抱いていようと、再起不能にしてやる」

そう捨て台詞を吐くと、隼人の元に駆けて行った。

 イライラしていた私をみて何を思ったのか隼人が言う。

「悪いな。言ってなくて。あいつには会わないと思ってたから」

本当に悪いと思っている顔で、そんな事を言って俯いていた。

「違うっ」

そう叫んだ私を不思議そうに見る。

「違うんだ……」

黙ってしまった私を、悲しそうな顔で、言って欲しそうな顔をしていたけど、私は言わなかった。隼人も訊こうとしなかったので、ずっと黙っていた。

あんな、あんな気持ちを持っていたなんて………
 
 みんな、プロジェクトに関わっていた奴は、後悔なんてしてないと思っていたから。

深い後悔の中に見えた感情。恋心。壊せない関係。あんなにも離れられる事を恐れていて、気持ちを伝えられない。幸せを願っている。あんなのを潰せない

「こんな力………………いらないっ!!」

決意した気持ちが、揺らいでしまう。
 自分の気持ちにゆれていると隼人が抱きしめて、背中を撫でてくれていた。

チャイムが鳴るまで、ずっとそうしていた。
< 205 / 210 >

この作品をシェア

pagetop