夢幻の姫君
「文句があるなら、直接言いなさいよっ」

私が言おうとしたときに聞こえたのは、教室に帰ってきた彼女の声だった。
 他の二人の姿は、見当たらなかった。

「見た目だけで判断してっ!バッカじゃないの?! だからあなた方のとこはだんだん売り上げが減っていくのよっ! 見下している収入の少ない人の身にもなって考えなさいっ!」

彼女は強気の声だったけど、すでに泣きそうだった。

「そんなんだから、貴女の会社は吸収されたのではないですか?」

一瞬鼻白んだが、一人の女が、さっきまで悪口を言っていた女が言い返した。

「何も知らないくせにっ!! 知ったような口を利くな!!」

彼女はもう見るからに涙目で、つらそうな顔をしていた。



  〝何も知らないくせに〟



少しだけ、共感してしまった。私があの世界で思っていたこと。

 だけど、何も知らないというのは、自分が思っているだけで、相手は少なからず知っている。

 自分は知っているフリで、本当は自分の知っていることをつなげたその人のイメージに過ぎない。 知れば知るほど、本当のその人に近くなるのかもしれないけど。

 自分が話してないのだから、知らないに決まっている。それを知って欲しいと思うのはただの我が儘だ。

 言い直すのならば、知ろうとしなかったくせに、かな。

「貴女は知ろうとしたのですか?」

私が口を挟むとは思っても見なかったのだろう、驚いた顔をしていた。

「何をっ!!」

「貴女が相手を知ろうとしなければ、相手だって貴女の事がわかりませんっ!!」

そう言えば、口をつぐんだ。悔しそうに。

「貴女の、貴女のように幸せに生きて来たわけではないわっ!! 何でもできるわけじゃないのよ!!」

そう言って教室から出て行った。
 帰ってきた、飯坂君と立花さんの制止の声もきかずに。
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