夢幻の姫君
幸せ、か。

確かに今は幸せだ。昔に比べれば充実した日々を過ごせていると思う。
 きっと彼女は守られてきたのでしょう。ある程度の安全と自由を。

私は、この日々を続けるために努力した。 苦しい事から逃げたけど、逃げ切れなかった。


   過去があるから、今がある


そう、聴いた事がある。

 あの過去がなければ私は、泣き虫で、傲慢で、今ある幸せが当たり前にあって、居場所があるのが普通で、それに幸せが見出せなかったのかもしれない。

 それが、たとえばの話。過ぎた事は変えられない。気にしたって仕方がない。気にすれば気にするほど、心の闇に飲み込まれていく気がする。

 そう思うのは、自分がそれを抱えているから。それを言うのは自分が気にしているから。

 私は前に進めていないのかもしれない。同じ場所から動かずに、周りを見ているだけ。

傷つけたくないと、彼等を突き放したのも、傷ついた彼等を見て自分が傷つくのが怖かったから。

飯坂君や、立花さんが何かを言っていたけれど、耳に入らぬまま、ボーっとして一日が過ぎた。

 一日にいろいろありすぎで、頭がぐるぐるしていた。

隼人が近くに来ても、真琴が迎えに来ても、ボーっとしていた。

 帰ってからも同じで、心配そうに見ているみんなを見ても何でそんな顔をしているかとか考えられなくて、私はただ同じことを考えていた。


彼女が見ている〝私〟は、いったいどう写っているのだろう。

そればかり考えてしまうのは、どうしてだろうと隼人に言うと。

「幸せを求めていたお前が、幸せなくせにと言われて自分の傲慢さにショックを受けたんじゃねぇの?」

 その意味を考えながら眠りについた。

何で隼人が私に言われた事を知っているのか、疑問に思わずに。


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