夢幻の姫君
「高杉。…外ってどんなとこ?」

いきなりクーにそんなことを聞かれた健人は驚くが優しい声色で答える。

「楽しいとこだけれど、怖いところでもある」
「怖いところ? 楽しいって?」

喜怒哀楽があの日消えてしまってから、誰にも教えられることなく育ったクーには、分からない。

「う~ん。うきうきするところと、びくびくするところがってところかな? まぁ、笑顔になれるところ」
「……笑顔…」

高杉といるとうきうきする、いないと何か物足りないそれがきっと―――

「寂しさ。ですよ」

クーの表情をいち早く感じ取った健人は答える。
 クーの表情は曇っていく。 不安そうな顔になりながら問う

「クーは高杉がいるから寂しくないよ。だけど高杉は寂しい?」

痛い所をつかれた気がした。

「どうして?」

声が震えないようにきいた。

「だって、お手伝いさんが家族といれないのは寂しいって」

彼は絶句してしまった。彼女は一人になるのを嫌うが、“自分のせいで”相手が困るのを一番嫌う。彼女を“兵器”か“実験動物”としか見てない奴等が吹き込んだのであろう。

「…私がいるから、帰れないんでしょう?」
「っつ」
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