夢幻の姫君
「高杉健人を呼べ」

 はい。といったその人は消え、健人が部屋に入ってきた。

「お呼びですか? 新名さま…」
「父と混ざる。翔(かける)と呼べ」
「はっ。そしてご用件は?」
「あの実験動物と、仲良くなっているようだな」
「うっ…」

本題に入られた。狙いはこれだったのか…
 このお方はいったい何を望むつもりだ?

「あまり入れ込みすぎるな。アレはもう人間ではない。ただの化け物にすぎん」

化け物にしたのはお前だろう!、と叫びたかった。彼女につらい思いをさせている原因はこいつだ。親からも引き離して――――

 でも言えなかった。何故なら健人には――――

「言いたいことがあるようだな。言ってもいいぞ。貴様の家族の無事は保障できんが、ね」

そう、健人は家族を人質にとられていた。
 実験が失敗すると分かっていた新名一族はこの事が口外されないよう、口止め料と人質をとっていた。

翔はニヤニヤしながら言う

「あぁ、帰りたいなら帰ってもいいよ」
「ホントですか!!」
「ただし、」

えっ… また条件かと思いながら言葉を待つ

「あの子を置いていけたらね。帰ったら二度と会えないよ―――?」

健人は絶句した。 あの子を、自分を慕うあの小さな女の子を置いていけるわけが―――

そうなることが分かっていたかのように、翔は満足げに笑ってから言う。

「彼女の力を引き出せたら、お願いを聞いてあげるよ――――?」
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