夢幻の姫君
スッとクーはこの拳を軽くよけた。その際クーのフードが落ちた。

「なっ!」

自分の拳が避けられた事と幼いのに整った顔、珍しい灰色の髪と眼を持つ少女に男は驚く。

 灰色の髪が、舞う。

その顔が心底楽しそうで、少年はその姿に見とれていた。
 踊るように拳を避ける姿はとてもきれいで、灰色の髪が夕日で色付き、オレンジに見えた。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

男は体力を切らしたが、クーの方は息切れも起こしていなかった。

「もう、終わり?」

挑発するように問う。口角は上がっていて、心底楽しそうだった。

「く、くっそぉぉぉぉぉ」

男は最後の力で殴ろうとする。 それを見ていたクーはニヤニヤしながら言う

「高杉」

パシッ

男の拳は息を切らした健人につかまれた。
 健人はクーを見ながら男を無視して怒る。

「クー。勝手に移動したら困ります!! 一応ブラウニング家の娘なんですからね!!」

クーはニヤニヤしたままだった。“それ”を言ってもらうのを待っていたかのように。
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