夢幻の姫君
ハルが向かった先は“高杉”と書かれた家の前だった。

 ピーンポーン

ハルはそのインターホンを押した。

「ハーイ、どちら様?」
「高杉、健人にお世話になったものですが」

バンッ

扉が開いた。健人が世話した者なんて最近はハルしかいないため、分かったのだろう。

「とりあえず、入って頂戴」
「ええ、お邪魔します」

見た目が幼児なのに落ち着いた対応を見せたハルに驚きを見せたが、ハルはなれたように本題に入る。

「初めまして“美和子”さん」

名前を呼ばれた女性、美和子はそうだったかと思うように答える。

「あなたが、“クー”ね」

懐かしい名前を呼ばれたハルは目を細めて思い出に耽った。

「何しに来たの? 私たちの家族の時間を奪ったあなたが」

怒気を含んだ声で言われた。ハルはそれを言われるのが分かっていたように、怒った顔をしていなかった。ただあるのは悲しみ。巻き込んでしまった家族への。

「今日はその謝りに…」
「謝ったって変わらないわ!!」

ハルの言葉を途中で切った美和子に苦笑しながら、ハルは続ける。

「もう、大丈夫です」
「な、何が…?」

遠いところを見るような目で言われた美和子はどもる。これでは自分が大人気ないと思いながら、ハルの言葉を待つ。
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