夢幻の姫君
ハルの残した言葉通りに仕事をしていたところに、人が来た。

バンッ

扉を力いっぱい開けたと思われる音を聞きながら前を見ると、憤怒の形相でこちらに向かっている、真琴の姿があった。

「父さん!!」

相当怒っているようだ。その様子からいくと、真実までたどりついたか。
 母さんを困らせて、言わせたな。まったく。

「どうした? そんな顔をして」

それだと知っていて意地悪く返す。

「ハルの居場所どこ!?」
「単刀直入だな。だが俺は知らないぞ」
「なっ?!」

言ってやったら黙ってしまった。昔の俺みたいだ。暴走すると駄目なんだよなぁ~
核心に入ったと思ったときのうれしさとわからない悲しさといったら……

「……どうして?」

真琴の声に意識を戻して前を見る。

「どうして俺たちに言ってくれな…」
「言ったら!! 言ったらお前たちはあいつの事を聞く前に反対するだろう?」

グッと真琴は図星を突かれたように黙った。ホントに俺と似てるなぁ~と思いながらハルの言った通りにある物を引き出しから出す。

「これは、いないとバレた時にお前らに渡せと言われていたやつだ。一人ずつある。全員で読め。それからどうするかは自分たちで決めろ。俺は決めたほうに協力してやる」

 どうなるかはもうわかっていた。でも自分たちでその答えを見つけて欲しかった。
あいつは守ってやらないと危険だ。新名だけじゃなくあいつらからも―――

俺はその時まで自分の事を言えなさそうだ。“また”裏切られたと思ってほしくないから……
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