夕陽
「まあ、とりあえず本人がそれでいいんなら。鬼になっても後悔はない?」
「ない」
即答。
後、栄太郎の顔が近づいてくる。え、鬼になる方法ってどういうこと?!
栄太郎が智咲の首筋に顔を埋める。
「え?ちょっ・・・あっ?!」
藍色の髪の毛が頬に当たってくすぐったい。
かぷ。
栄太郎が首筋に噛みつく。
「い゛っ・・・・!!」
少しの痛みと、恥ずかしさから顔が赤くなる。
「・・・んぅ。ふぁッ・・」
思わず口から甘い声が出て、口元を抑える。
すっ、と首筋から栄太郎の顔が離れる。
「ちょっと!いきなり何するの!!!びびびびっくりしたじゃんか!!」
「びっくり以前に顔、赤いけど?」
トントン、と自分の顔を人差し指で指差す。
耳まで真っ赤になるのが分かった。
「いい声だったね?続けてあげようかと思ったけど、今はそれが目的じゃない。ね、そうでしょ?沖田さん?」
ちらりと横目で奥の路地を見る。
釣られて智咲も見る。
「そ・・・うじ、さん?何でここに・・・。」
恥ずかしい場面も見られてたかもしれない。声が震える。
「最初からいたよね?甘味どころで智咲を見つけて、声をかけようとして。でも知らない男がいたから、あとを追ったんだよね?話も聞いてた。」
ずっと俯いたまま、こちらを見てくれない。
それでも栄太郎は続ける。
「本当は自分でも気付いてた。労咳のことを。医者に行けば、そんなのすぐ分かる。」