夕陽


   ある親子の会話


「眠れない」

子供はいう。


「なら、昔話をしましょうね」


母は話はじめる。


・・・・・・・・・・・・・・・・


昔、一人の鍛冶屋の妻が子供を授かりました。双子の可愛い子供でした。男の子と女の子。鍛冶屋の旦那は喜んで双子のために残りの人生すべてをつかって刀を創りました。




一つ目は、朝陽。

普通の刀ではない蒼の刀。
朝一番に昇る太陽をかたどったもの。
いろんな人たちを、新しい今日とともに、昇っていく太陽。
始の刀。



二つ目は、夕陽。

普通の刀ではない紅の刀。
綺麗に沈んでいく太陽をかたどったもの。
いろんなひとたちの、一生懸命働いた今日とともに、沈んでいく太陽。
終の刀。






鍛冶屋の旦那は二つ目の刀を創り終えたとき、双子にこういいました。


「二つの太陽が重なるとき、どちらかの太陽は滅び、どちらかの太陽は生き残る。生き残ったほうの太陽は、いつまでも生き続けて、死ぬ方法を見つける。最後は、どちらも滅びる。太陽は、太陽の子供へと受け継がれるのだ。」


双子は鍛冶屋の言った意味がわかりませんでした。
それでも鍛冶屋の旦那は双子の兄には『朝陽』を。双子の妹には『夕陽』を渡しました。


双子が刀を受け取るのを確認したあと、鍛冶屋は息を引き取りました。
わけもわからないまま、双子は残された母と一緒に生活します。


何年か過ぎ、母は流行の病にかかりました。もう母は虫の息です。自分でももう生きられない、とわかった母は、双子の兄を呼んで最後の言葉を残して鍛冶屋の旦那の後を追いました。




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