夕陽




「に・・・さま?」


「今は智咲に前世のことを思い出してもらえた。兄様と昔みたいに呼んでくれた。もっと話したいことがあるのに。聞きたいこともあるのに・・。今はすごく眠い。初めて死んだときのことを、思い出す。」



・・・智咲の流している涙を自分の手でふき取りたい。


どんどん意識が揺らいでいく。



・・・せっかく兄様と呼んでもらえたのになぁ。


瞼が重くなっていく。


・・・自分のために泣いていてくれる。


どんどん身体の痛みが消えていく。


・・・話したいことも、たくさんあったのになぁ。まだ、死にたくないな。


初めて死ぬときみたいに、少しずつ、死を確認していく。




「ないてちゃ報われないから・・・笑ってよ」


「え・・・?なんか、本当に死ぬみたいだよ?」


「・・・いいから、笑ってよ」


「え・・・う、うん。」


引きつり気味だけど、笑ってくれる。





少しずつ迫る死を確認しながら。








やっと願いをかなえて。






それでも少しだけの未練を残して。






妹に看取ってもらいながら。






自分のためだけに泣いてくれる人を残して。






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