夕陽

「正直辛い。
何度も夢の中に現れる、
お父さんとお母さんを見て、
何度も死にたくなった。
しかもね。
夢の中に出てくるお父さんと
お母さんは、
厳しいことばかり言うの。
なんで生まれてきたんだ。
お前なんかいらない。
なんでお前が生きていて
私たちが死ななきゃいけないのって。」

沖田は何もいえなくなった。

それでも智咲は続ける。

「辛くて辛くて。
どんなに謝っても、
お父さんとお母さんの
私に向ける目は、
冷たくて、今にも凍りつきそうな位。
そのうちに私も病んで行って、
心が壊れちゃったの。
前言ってた精神安定剤がないと、
気が狂って叫び続けるの。」

「そうなんですか。」

沖田は胸が痛む。

「私は家が武家でした。
長男の私が家を継ぐはずだったんですが、
両親との血が繋がってなくて、
あーだこーだ言われて、
近藤さんの道場に内弟子として、
預けられたんです。
父が2歳のときに死んだのは、
一緒ですね。」

そういって沖田は微笑む。
それにつられてか
自分の過去を打ち明けて心が軽くなったのか、
智咲も微笑む。

「さ。
近藤さんたちが心配しています。
宿に戻りましょうか。」

「分かっ・・・くしゅんっ!」

智咲がくしゃみをする。
それもそのはずで、
長時間水の中にいた。

もう太陽はお日様から
夕日に変わろうとしていた。

「急いで戻りましょうか。」

「ふぁい。」

川から出た智咲は、
夕日をみて、
今までで一番綺麗だな、と思った。

私は死ぬまで沖田さんたちと一緒にいよう。
そう感じることができた。
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