微笑みは瞳の奥へ(更新休止中)
受話器越しに、明らかに動揺したような気配。
言葉に詰まる男に構わず続ける。
「父さんの遺した金が目当てなんでしょ? いくらあるって聞いてます?」
「――っ……甲太朗! 何て事言うの!!」
途中から電話の相手は母に変わっていたらしい。
「その男の人。俺と話したいんじゃなかったの?」
「失礼な事言わないの! 彼はあなたが思っているような人じゃないわ」
――どうだか。
何も後ろめたい事が無いなら、途中で母に携帯を預けずに自分で誤解を解こうとするだろう。
もし、俺の“お父さん” になるつもりが少しでもあるなら。
「とにかく謝りなさい」
「俺、ただ素朴な疑問を口にしただけだよ」
「甲太朗! あなたは――」
携帯を耳から離し、開いたまま机に置く。
母がこれほどまでにヒステリーをおこすのは、俺の言っている事に少なからず図星を刺されているからだろう。
相手の男もたいしたことない。
こんな簡単な揺さ振りに動揺して、お金を受け取っている事を否定しなかった。