微笑みは瞳の奥へ(更新休止中)
机に置いた携帯を指先で軽く弾く。
開いたままの携帯電話はくるくると机の上を回り、そのまま端まで滑り床に落ちてしまう。
携帯はちょうど開いた画面が上向きになるように落ちた。
母は、まだ何事か言っているようで受話器から小さく金切り声が聞こえる。
携帯から目を背け課題を再開しようとすると、コンコン、と部屋のドアをノックする音。
「ぼっちゃん。そろそろ時間ですので、お先に失礼致します」
机に置いておいた目覚ましで時間を確認すると、時計の針はちょうど9時をさしていた。
「ちょっと待って」
とっさに呼び止める。
椅子から立ち上がり、急いで自室のドアの前まで行く。
ドアを少し開け、廊下を覗くと、彼女はやはり無表情でこちらを見ていた。
「名前、聞いてなかったから。お手伝いさんとかハウスキーパーとか、言いづらいし」
「名前……」
ほんの、微かだが――
一瞬だけ、彼女の表情が戸惑ったかのように揺れた。