微笑みは瞳の奥へ(更新休止中)
【黒い悪魔】
「な、何?」
俺の問い掛けに彼女は何も答えず、すっと、部屋に足を踏み入れる。
右手に見えるのは、刃渡り15センチ程の出刃包丁。
刃先はこちらに向けられており、蛍光灯に照らされ、冷たく光っている。
一歩、後退ると、彼女もまた一歩、距離を詰める。
刃物を持つ手は小刻みに震え、額には玉のような汗が浮かんでいる。
だが、その瞳は瞬きもせず真っ直ぐ、俺の姿を捕らえ――
「ぼっちゃん……殺虫剤、ありませんか……?」
彼女は、震える声でそう言った。