微笑みは瞳の奥へ(更新休止中)
「あ、芳野先輩! ほら、ぼっちゃんっすよ!」
その声に、顔を上げる。
50メートル程先に見える、自分の家の門。
その前にシルバーのワゴン車が一台止められていて、その横に石和田さんと芳野さんの姿が見える。
芳野さんはこちらに気づくと、軽く会釈をして門の中に消えて行く。
石和田さんは俺の方へ、手を大きく振りながら走ってくる。
「え……? 石和田さん?」
「ぼ……ぼっちゃん……お久しぶり、っす!」
「うん……」
全速力で走って来たせいか、肩で息をしつつも元気に挨拶してくれる。
「まだ帰ってないって聞いて、心配したっすよー。あ、今日、仕事でたまたまこの近くに寄ったんすよ」
「へえ……」
石和田さん……彼はいい人だ。
……料理は壊滅的だけど。
コンビニおにぎりの翌日、彼は頑張って手作り料理を作ってくれた。
焦げた匂いのカレーと、水の量を間違えてベチャベチャのご飯……
残さず食べた自分は偉いと思う。
彼は自分でも言っていたが、致命的な味オンチでもあるらしい。
だけど、他の仕事は真面目にやってくれるし、彼と話していると不思議と気分が和む。
歳よりも若く見えて、あまり年上に感じないからかもしれない。