微笑みは瞳の奥へ(更新休止中)

「あ、芳野先輩! ほら、ぼっちゃんっすよ!」

その声に、顔を上げる。

50メートル程先に見える、自分の家の門。

その前にシルバーのワゴン車が一台止められていて、その横に石和田さんと芳野さんの姿が見える。

芳野さんはこちらに気づくと、軽く会釈をして門の中に消えて行く。

石和田さんは俺の方へ、手を大きく振りながら走ってくる。

「え……? 石和田さん?」

「ぼ……ぼっちゃん……お久しぶり、っす!」

「うん……」

全速力で走って来たせいか、肩で息をしつつも元気に挨拶してくれる。

「まだ帰ってないって聞いて、心配したっすよー。あ、今日、仕事でたまたまこの近くに寄ったんすよ」

「へえ……」


石和田さん……彼はいい人だ。

……料理は壊滅的だけど。

コンビニおにぎりの翌日、彼は頑張って手作り料理を作ってくれた。

焦げた匂いのカレーと、水の量を間違えてベチャベチャのご飯……

残さず食べた自分は偉いと思う。

彼は自分でも言っていたが、致命的な味オンチでもあるらしい。

だけど、他の仕事は真面目にやってくれるし、彼と話していると不思議と気分が和む。

歳よりも若く見えて、あまり年上に感じないからかもしれない。



< 38 / 59 >

この作品をシェア

pagetop