水晶玉は恋模様
「あんた、占いには興味あるかい?」

そう私に問いかけながら、
香奈枝は身につけていた胡散臭い衣装を脱ぎ捨て、エプロンをつけた。
こうしてみると普通の主婦だ。

「えっ?はぁ、まぁ、少しは……。」

本当は興味なんて、全然無かった。
大体数日前までは占いの存在自体信じていなかったのだ。

私が返事に詰まると、香奈枝はムッとした表情をした。

「実は、ここで占いのレッスンをやってるんだ。
今日の午後からレッスンがあるんだよ。やっていくかい?」

私は返事に困って俯いた。
何でも見透かしてしまいそうな黒い瞳が、こちらを見つめている。

「じ、じゃあ……。」

私が首を縦に振ると、香奈枝は嬉しそうに笑った。
そして、

「じゃあお昼ご飯を食べていきなさい。さあ、そこに座って。」

パタパタと奥の部屋に駆け込んでいく香奈枝は、
うちのお母さんみたいだった。

私が大人しく椅子に座って待っていると、部屋の奥から誰か出てきた。
私は思わず椅子から飛びのき、天井から吊り下げられていた布の裏に隠れた。

「何やってんだ?お前」

その人物はそう言って笑った。
私は恐る恐る布から外に出る。

「お前、お袋の客だろ。ゆっくりしてけよな」

その人物はそう言うと、にっこり笑って手を差し出した。

「俺、柳沢 拓馬(やなぎさわ たくま)。柳沢 香奈枝の息子だよ。」

私はビックリして、奥の部屋で料理を作っている香奈枝のほうを見た。
紫の服なんて着ていたから年をとって見えただけで、
実際は高校生くらいの子供が居そうな年齢のようだった。
私はその手を握った。

「う、うん」

友達を作ることが苦手だった私にとって、
拓馬は何年かぶりの友達となった。
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