水晶玉は恋模様
私達は適当に先生の話を聞き流し、
その後も適当に過ごした。
望も同じように過ごしているはずなのに、
何であんなに頭が良いのだろう。
そんなことを考えているうちに、
お弁当の時間がやってきた。
私達は椅子に座り、弁当を広げた。

「あれ?牡丹、パンだけ?」

圭子に聞かれて、私はうなずいた。
最近体重が気になってきたので、
パンダイエットをすることにしたのだ。

「ジャムつけて食べるの。」

そう言いながら、弁当の袋をかき回す。
でも朝入れたはずのジャムが見当たらない。
どうやら忘れてきてしまったようだ。

「ありゃりゃ。何にも無しで食パン2枚はきついぞ~。」

圭子が軽く笑いながら言う。
望は真顔でミニトマトを差し出した。

「これを潰してジャムにしなよ。トマトジャム。」

望は頭が回るのに、日常生活では何故か抜けているところがある。
それが私達が望と一緒にいる理由であり、
望が只のガリ勉にならない理由だ。

「いらないよっ。どうしよー」

私は椅子にもたれかかった。

「君、ジャム無いんだって?あげようか?」

いきなり後ろから声を掛けられて、私は振り返った。

「えっ、いやっ、ジャム無しでも普通に食べられますけどッ」

あまりにも優しそうな顔をして立っているその男性に、
私はクラリときながら答えた。

「いいよ、いいよ。勝手に妹が入れちゃうんだよね、
ジャム。俺嫌いなのに」

そう言って彼は小さなジャムの袋を取り出した。

「あげるよ」

そう言って彼は、私に小さなジャムの袋を渡し、
遠くの席に消えていった。

「高沢……」

彼の名札の名前をしっかりと心に刻み、
私は彼がくれた苺ジャムの袋を見つめた。

これが、私の5度目の恋の始まりだった。
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