深く、高く。~観念世界2~
大丈夫だから、という一言が意味をなす言葉として脳に染みた時、私はもう心臓のドキドキも耳に残る声の余韻も消え、また当てもなく暗闇をなす術もなく落下するだけの、もの思うひとつの塊の戻っていた。

私に卑下た笑みを向けてすれ違い、ややしてから大丈夫だと言ったあの私は何を思っていたのだろう。

私が落下しているということはすれ違ったあの私は昇っていることになる。
落ちる私と昇っていく私。
大丈夫だという言葉。

そこから私はひとつの仮定を導いた。

帰れるということか。

脳から直接信号を受けたように自然と目が開き、自動的に頭の上に視線を巡らす。
そうしながら大丈夫だと言うならもっと具体的な方法を伝達してくれればいいのに、と私は思った。

しばらくすると、視界に何かが映った。

それはどう見てもただの細長い棒のようだった。

支柱のないどこまでも伸びている長い物干し竿のようだった。

私は躊躇うことなく手を伸ばす。

何も考えてなかった。

何も考えずに最後のチャンスだと思って手を伸ばした。

だから、私の手はそれを掴み、身体は落下することをやめ、ぐるりと回転した。

その回転に抗うことなく回り、一回転したところでまた重力の変化を感じて私は手を離し。

足元に棒が見える。

落下しているのか、昇っているのか、私には判断がつかない。

相変わらず視界は暗闇だし、瞳孔は暗闇に慣れる気はないみたいに光を求めない。

そもそも光はないしね、なんて私はのんびりと思った。

まだ助かるか分からないのに、私はさっきと比較にならないくらい落ち着いていた。

それは恐らく私が手を伸ばしたからだと思う。

そして大丈夫だとあの私に言われたからだろう。
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