あひるの仔に天使の羽根を
「で、でも…私ずっとお話していて……」
イクミが泣きそうな顔で反論した。
「シキミの部屋のテレビは…恐らくは娯楽用ではない。レグの開発した、娘気取りのプログラムを音声化したものだ」
つまりイクミは、機械の声と会話していたと?
「だけどね、櫂。イクミはちゃんと会話出来ていたんだよ? 幾らなんでも、何年も話をしていたら、イクミだって違和感感じるでしょう、生身の相手でないのならおかしい会話になるよ?」
イクミはうんうん頷いた。
「人工知能だよ」
玲くんが言った。
「確かに人工的な言語では、会話の語弊力などに限界がある。だけど人工知能なら、機械が学習をする。つまり、レグを通して知能を拡げ、イクミを通して世界を拡げたんだ。何処までも自然に」
「何でレグはそんなものを!!?」
「平凡の生き方を決意させた妻子を失い、寂しかったんだろう。娘を模倣した存在を…例え偽りであろうと慰めとして創り出そうとしたんだろう。
だがそれは恐らく停電時に何らかの衝撃を得て、彼の意にそぐわぬ予想外の動きをし始めたのだと思う。
結果……自我を持ってしまった」
「自我?」
「ああ。自我は欲を育て…そして"約束の地(カナン)"を支配しようとした。
教祖として君臨し、父の名を騙り。
つまり教祖としての"刹那"は、緋狭さんの言う言葉では"虚構"」
「「「はあ!?」」」
あたしと煌と由香ちゃんの声は、きれいにハモった。
「いないんだよ、此の世において…玲のコード変換の速度を凌駕できる人間は」
櫂は愉快そうに笑った。