あひるの仔に天使の羽根を
「だけどね、レグだって目的があって"約束の地(カナン)"に来たんでしょ? 各務翁と手を結んだんでしょう? それは電脳世界のシキミを育てることなの? どうして須臾と同じ声にしたの!?」
「須臾と同じ声にした理由は判らん。ただ…レグの"約束の地(カナン)"構築の構想は…電脳世界の娘の育成ではない。それは副産物だと思う」
「じゃあ何?」
櫂は玲くんを見た。
「お前、手帳に挟まれていた…緋狭さんが言うところのレグの紙の解析が出来たんだったよな?」
「ああ。パソコンに125×125の升目にびっしり入った図形文字のデータがあったね、それが紙の解読不明の文字の形と一致したからね、由香ちゃんがパターン化して文字を解読してくれたよ」
"峻厳と慈悲は均衡を保ち、彼の者に捧ぐ柱は玉を穿って大木と為す"
"大いなる智慧と理解の最果てにある勝利と栄光の王冠は、美しき王国の礎となる"
「何よ…それ。わけわかんない事態に暗号?」
なんかもううんざりしてきた。
どうしてレグさん、言いたいことをすっぱり書いてくれないんだろう。
「それでこの紙の内容を、誰もが恐れているわけか」
――そしてそれを実行されれば、各務翁の望みは絶たれる。それに目をつけた鏡蛇聖会が奪還に動いている。
「……判るの?」
櫂はおどけたように肩を竦めた。
「正直判らないことだらけだ。
陽斗に酷似したあの女も司狼という子供も」
「あの女は蓮っていう名前らしいよ。何かね、蓮はお姉さんを殺されて、司狼はお兄さんを壊されたんだって。更に蓮は刹那の犬なんだって」
「犬? 何だ、それ」
櫂の犬が、やはり反応する。
「急に私達を助けた意味が判りませんよね。彼女の意思ではなかったみたいですけれど」
桜ちゃんが目をくりくりさせて言った。