あひるの仔に天使の羽根を
「それからあの榊っていう神父。各務の従医だったんだろ!?」
煌の言葉に、桜ちゃんの顔が一瞬険しくなった気がした。
「"断罪の執行人"かと思ったんだけどな……。って、由香ちゃん大丈夫? どうした? 咽せちゃった?」
優しい玲くんは、咽せ込んで咳を繰り返す由香ちゃんの背中を摩った。
ちくり。
何だろう、心に棘が刺さったような感覚。
独占欲?
なんだかその表現がしっくり来る。
"お試し"彼女のあたしの独占欲か。
そうだよ、あたし玲くんと付き合ってるんだ。
"お試し"だけれど。
ああ、あたし何で櫂の横に座ったんだろう。
彼女は、彼氏の横に座るもんじゃないだろうか。
玲くんは気にならないんだろうか。
やっぱり、"お試し"はその程度なんだろうか。
ああ、もっと考えるべきことは沢山あるのに、何些細なことに囚われてしまうんだろう。
判っている。
あたしの弱さが、これから挑もうとする闘いから逃げようとしているんだ。
散々拒み続けている櫂と。
その櫂を人形に押し込めようとする須臾に。
その辛さから逃げて、優しい玲くんに流れようとしている。
ああ、そんなこと駄目だ。
あたしは決意を新たに唇を噛んだ。
そんなあたしを、漆黒色と橙色がじっと見ていたことに、何1つ気づかずに。