あひるの仔に天使の羽根を

・薄氷 煌Side

 煌Side
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部屋に現れた芹霞が、真っ先に櫂の隣に座った時、玲の顔が一瞬強張ったのを俺は見ていた。


芹霞が玲と…お試し故のお買い得感で付き合うと言い出しても、やっぱり思った通り芹霞には"恋人関係"という自覚が足りねえ。


俺達、仲が良過ぎかも知れねえけどさ、普通…彼氏の横に座るぞ?


結果座らないにしても、少しくらい躊躇ったり、玲の視線を気にする素振りみせるぞ?


玲はあんなことがあった後だから、確かに明確な態度ではなかったにせよ、お前のヘアピン奪って椅子に座り直した後、お前を隣に座らせようと身体をずらしていたんだぞ?


遠坂も席を譲ろうと、立ち上がりかけていたんだぞ?


それをさ…いつも通り櫂の隣に堂々と座るなんて、少し玲が不憫だ。


お前にとって付き合うって何だ?


形だけの付き合いは俺にとっては嬉しいことだけれど、時間制限付きの"彼氏"である玲にとっては、面白くねえ…というか、腹立たしいだろ。


しかもあんなに櫂を恐れているくせに、自ら距離を詰めようと奮起して櫂の横にいるんだ、そこまでする心の動き考えれば焦らねえはずねえだろ。


だけど玲は、そんな素振り見せずにいつも通り振る舞っていて…まあ時折、櫂と芹霞が話している時、苛立った目を寄越していたけれどさ。


そしてとうとう、玲の奴やりがったんだ。


俺は目の前で、遠坂の背中を摩り続ける玲を、睨み付けるように見つめた。


お前遠坂のこと、優しく言葉に出して心配こそするけれど、今まであえて触れる事してこなかったろ?


お前、おかしな処で潔癖症だから。


じゃあ何でそんなことしたのか、なんて理由は至極単純。


芹霞の自覚を促したんだ。


つまり遠坂は当て馬だ。


だけど相手は超鈍感女。お前の真意なんて伝わらねえって……と思いきや、意外にも意外、芹霞は顔を引き攣らせて、唇を噛んで見ている。


嫉妬か?


……玲に愛情湧いているのか?


そんな芹霞を見て、口角を弛ます玲に……凄く苛ついた。



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