あひるの仔に天使の羽根を
遠坂が何かを玲の耳元で囁けば、玲は苦々しい笑いに変えて動きを止め、そして目を三日月型にさせた遠坂が、親指を立てて玲に見せていて。
間違いねえ、遠坂も確信犯だ。
つーことは、遠坂も玲もが確信したわけだ。
芹霞が遠坂に嫉妬しているということに。
何だよ、芹霞。
櫂の時は須臾に妬いて。
玲の時は遠坂に妬いて。
で、俺のはなし?
俺は眼中外?
本当に玲と付き合おうとしているわけ?
彼女の自覚しちゃっているわけ?
頭を鈍器で殴られたような衝撃。
お試しだろ、お試しの間だけだろ!?
たった数日で、芹霞に恋心なんか浮かばねえ。
だからこそ許容した、玲とのお試し。
玲は、芹霞との関係の破綻を覚悟してまで櫂を救ったんだ、それくらいのご褒美…認めてやってもいいって(かなり渋々)思ったけど。
だけど俺は。
いつも気づいた時には、事態が手遅れになっているのを繰り返し続ける、愚鈍な男だということを忘れていて。
妙に焦る心が、俺の喉をひゅうと鳴らした。
「話を続ける」
威嚇するような低い声を出したのは櫂で。
元に戻った櫂ならば、芹霞の様子に気分を害さねえはずもなく。
いつもならば無理矢理にでも芹霞を手で引き寄せるんだろうが、触れたら熱がる妙な身体になっちまっているし、櫂は櫂でもどかしさに焦れているらしい。
くそ…なんて罪作りな女だよ。
お前に惚れている男達は、お前という薄氷から動けない。
迂闊に動けば、冷たい水底にドボンだ。
喘いでも喘いでも、沈んで溺れていくだけ。