あひるの仔に天使の羽根を

「それから。各務翁もその息子の死因も死亡時期も曖昧だ。"約束の地(カナン)"以前に息子はいたことは僕も知ってたけれど、この4.5年で2人が死んだ事実。そして息子の妻がこんなにいて、子供が3人…4人居たということは今知り得た情報だ。

どうも隠された要塞都市"約束の地(カナン)"にて、起こる事態が早すぎる感がある。まるで早送りだ」


そして玲は、鳶色の瞳を細めて、櫂の漆黒の瞳を見据える。


「なあ櫂。桜の仕入れた情報では、各務家は双子の生まれやすい家系らしい。その片割れが畸形やらで生まれつくのであれば……近親婚でも繰り返された家柄だと思えないか?」


「遺伝子異常? ああ、各務は元は鎌倉に遡る…伊勢神宮に使えた斎王の流れを汲み、古神道の秘伝が伝承されていると聞いたことがある。秘伝を護る為の近親婚があっても不思議ではないが……」


「男蔑視の風潮は、女ばかりの…女権威の斎宮の風潮の影響もあったと思う。だけどさ、僕ふと思ったんだ。近親婚の結果の遺伝子異常が、畸形だけではなかったとしたらって。或いは畸形故なのかな」


櫂が目を細めて、続きを促す。


「ウェルナー症候群」


そんな耳慣れぬ単語を玲より聞いた時、櫂が瞠目した。


そして少し考え込んだかと思うと、にやりとした笑いを作る。


――――時間が無視された処に、此の地の本質がある。どの部分が無視され、どの部分が矛盾を引き起こすか考えよ。


「成程ね。それなら早送りの部分は何とか説明出来るか」


紫堂の従兄弟は何かに思い至ったようだが、俺にはさっぱりだ。


芹霞も遠坂もさっぱりらしい。


だけど桜は、


「しかし玲様。では地下牢の老人は誰だと?」


質問できる桜は、やっぱり俺とは頭脳の出来が違うらしい。


しかし玲は、苦笑した。


「証拠はないけれど、推論としては桜や櫂と同じだよ?」



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