あひるの仔に天使の羽根を
 
駄目だ。俺、置いてきぼりだ。


口尖らせて説明を求めようとした俺に、櫂の声が重なってしまった。


「その他判らないのは、この地下にある魔方陣や石の扉、各務の迷宮などの意義。それからこの地のルール定義。それからあの双子の天使のこともだ」


「……月ちゃんだね?」


玲が堅い顔をして言った。


「ああ。元々あの双子は、食料庫が"深淵(ビュトス)"にあると言っていた。"深淵(ビュトス)"にあるのは"生き神様"と呼ばれる男を食らう化け物と、電力が施された実験…飼育施設、そして緋狭さんが言うには饗宴……サバトが繰り広げられている場所…」


"生き神様"と聞いたら、唯一の目撃者の俺が口を挟むしかねえ。


「しっかしよー、芹霞と逃げている時には、あの地下にはそんな色々な場所があるようには思えなかったけど。嫌に監獄の空き部屋は多かったけどさ」


まだ抜け道があったんだろうか。


「"生き神様"だってひっそりと、月の光に照らされて侘びしく人間食ってたしよ。食料庫…っていう感じではなかったが」


「月の光?」


櫂が目を細めた。


「お前、地下に下りたんだろう? 何で月が見える?」


「そうだろ? だけど高窓から見えたんだ。間違いねえ」


櫂は考え込んでしまった。


「重力子による地形変化…が関係あるのかな」


玲の声。


「あるとすれば、その意味合いが重要だ」


櫂は、地下に月が見えたことを重く受け止めているらしい。


俺はさっぱりだ。



< 1,019 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop