あひるの仔に天使の羽根を
「ねえ紫堂、どうする? 夜が明けるまでもう少し。早く何か策を考えないと、大変なことになりそうだ。姉御が心配するくらいだからな」
遠坂の言葉に、皆が同調した。
「儀式放棄が何で出来ないんだろう? 逃げちゃえばいい気もするけれど」
「芹霞が関係しているのなら、そうもいかないな」
芹霞は唇を噛んで俯いていた。
多分、重荷になっていることを悔やんでいるのだろう。
違うのにな。
櫂は。
自分の身がどうのというより、お前が危険な目に遭うことだけを恐れているだけだ。
櫂は、お前の為なら命投げ出す男だ。
「神崎の痣っていうのが意味ありげだよな」
遠坂が腕を組みながら、前のめりになってじっとりと芹霞の胸を見るから、俺も同じようにじっとりと見ていたら…。
「どこ見てやがんだ、
――このボケッ!!!」
桜に、思い切り頭を殴られた。
「痛えよッッ!!! それよりなあ、どんな痣なんだ、それ」
俺が聞いたら、芹霞は一度ぶるりと身体を震わせた。
「鏡で見る勇気もないからよくは判らないけれど、樹のような感じ」
「樹?」
何とも曖昧で抽象的。
すると櫂は俯いて前髪をくしゃりと掻き上げると、少し怒ったような険しいな顔を上げて、玲を見据えた。
「玲。図に描け」
確かにな。
芹霞の胸、見ているのは玲だけだし。
玲だけ……。
芹霞の顔は真っ赤で。
真っ赤……。
――ムカつく。
2人だけの世界が無性に苛つく!!