あひるの仔に天使の羽根を
「なな何だよ、そんな殺気だすなよ、櫂も煌も!!!」
少し玲は少したじろいだ様子を見せ、慌ててパソコンを手に取り、指先を手前の小さなパッド上で器用に動かし、白い…キャンパスのような画面に絵を描いていく。
描かれたのは、太い幹を中央に、左右幾つかに枝分れた樹だ。
ただ何か奇妙な形だ。
ああ、根っこみたいのが上にあるから、逆さまに見えるんだ。
くっそ。はっきり描ける程、芹霞の胸を見たのかよ。
「この痣が芹霞にどう影響するのか判らない上、事前の消し方も判らないなら、どうしたらいいだろうね?」
溜息交じりの玲の声。
「だが、須臾に芹霞を道具として利用されるのだけは許せない」
櫂の低い声に、芹霞を覗いた一同が深く頷いて。
芹霞の目が、少しだけ潤んでいたことには見なかったことにしておこう。
「まだ判らないことばかりだね。まだ白皇も判らないし、久遠が帰ったら問い詰めてみるか。あの男も謎ばかりで、色々隠しているしね。
僕は、何か緋狭さんが最後に残した言葉が気になっているんだ」
――神を信じぬ桜、愚鈍さを嘆く煌、残酷さに怯える玲、貪欲な坊、拒絶する芹霞。無感動の久遠、美醜に囚われた須臾、心が不安定な千歳、禁断の色に走る柾、此の地に君臨する樒。
「ああ、俺も考えているが…俺達を含めた行動が全て、白皇の元に仕組まれていたということは判るが、それだけではないだろう」
そして苛立ったように眉間に皺を寄せて、天井を振り仰いだ。
「駄目だな、思考が定まらん。15分、休憩をとらせてくれ。シャワーで頭を冷やしてくるから」
そう言って櫂は席を立った。