あひるの仔に天使の羽根を
冷水は身体の芯まで冷やし、少し身震いしながらシャワーを終えた。
バスタオルで髪を拭きながら、ドアを開けて暗闇の中に足を伸ばすと
「!!! 芹霞!!?」
丁度浴室の真正面に、こちらに顔を向けて何故か正座している芹霞。
「ど、どうした!?」
尋常ではない程に強張ったその顔に、訝りながら身を屈めて語りかければ、
「櫂、服着て服ッッ!!!」
そう怒鳴られて、俺は慌ててベッドの上に投げ捨てたシャツを羽織る。
「で、どうした?」
仕切り直して、まだ正座したままの芹霞に聞けば、
「ごめんなさい!!!」
突然芹霞は、俺に土下座し始めた。
わけが判らない俺が口を開こうとした時、芹霞がまくしたてる。
「勝手に怒って勝手に離れて勝手に信じられなくなって勝手に怖がって、本当にごめんなさい!!!」
そして上げられたその顔には。
くっと唇を噛み締めて、泣くのを我慢しているような潤んだ黒い瞳。
俺は芹霞に手を伸ばして、途中で止めた。
触れられない。
「櫂の怒りはごもっともです。怒鳴られて掃き溜めに捨てられるの覚悟で、神崎芹霞は謝罪します!!!」
芹霞は必死のようなのだが、まるで遠坂のように思えて、少し笑えた。
「今まで、櫂のこと考えずに色々押し付けてごめんなさい」
涙が混ざったようなその声に。
「あたしばっかり永遠とか言ってしまってごめんなさい。
櫂は御曹司なのに、幼馴染だからっていい気になってごめんなさい」
「ちょっと待て……」
嫌な予感に、心臓が1度大きく脈打った。
「本当は一緒に居られるはずないのに、ずっとあたしの執着で煩く付き纏ってごめんなさい」
「芹霞!!!」
俺は思わず芹霞の双肩を鷲掴むと、芹霞は短い呻き声を上げて顔を歪ます。
「悪い!!!」
そう身体を離したものの、それが今の俺達の距離のような気がして溜まらない。