あひるの仔に天使の羽根を

・至近2

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「芹霞、俺だけを求めろよ!!」



櫂の掠れきったその声が、抑圧されたあたしの心を裂き、



「うわあああああ」



あたしは涙を抑えることが出来なかった。



――芹霞ちゃあああん。



あたしの櫂。

あたしだけの櫂。


あたしだけが櫂の永遠で、櫂だけがあたしの永遠で。



――芹霞。



紫堂の櫂となって、あたしに一線引いた櫂。

あたしだけで世界が回らなくなった櫂。


櫂が好きなら、あたしは我慢しないといけない。


我慢しないと櫂の横には居られない。


櫂を求めてはいけない。



だけど――



もし、櫂が欲しいんだって言っていいのなら。


もし、我慢しなくてもいいと言ってくれるのなら。


それがひと時でも、許されるというのなら。



「櫂、離れちゃ嫌だああああ」



あたしの防波堤は崩れて。



「あたしと永遠約束したじゃない!!!

ずっと一緒にいるって言ったじゃない!!!

なのに、なんであたしを捨てて違う処に行くのよ!!?」



憂いの含んだ切れ長の目があたしを見つめて。


切なそうにあたしの頬に手が添えられて。



あたしは――


その手を払った。




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