あひるの仔に天使の羽根を
「あたし以外に触れた手で、あたしに触れないでッッ!!」
途端、櫂の顔が悲しみに歪んだ。
「悪かった……。俺は須臾の術に…」
「あたし以外の名前を呼ばないでッッ!!!」
思わずあたしは櫂の頬を叩いてしまった。
「嘘つきッッッ!!! 好きになったらコロリと違う女に永遠告げるくせに!!!」
あたしの知らないあたしが叫んでいる錯覚。
「聞け!! 俺はお前と須臾を…」
「そういう言い訳嫌いッ!! あたしの前でべたべた手を繋いで、あんなキスをして、あんな甘々な顔して、永遠まで誓って、しかもキスマークまで!! 生々しい証拠を見せ付けたくせに、実は操られていて…とか、なかったことにするわけ!!?」
謝るはずだったのに、あたしは何に怒っているんだろう。
衝動的なあたしが止まらない。
「櫂が、あんなに盛りのついたサルだと思わなかった!!! 香水女に走る変態煌と変わりないじゃない!!!」
キレているあたしもあたしだけれど、
「!!! じゃあお前はどうなんだよ!!? 玲とべたべたべたべた!! そんな処に沢山キスマークなんかつけられやがって!!! 俺が止めなきゃ最後まで許したのかよ!!?」
負けじと櫂まで怒り出した。
沈着冷静な御曹司が、こんなに声を荒げてあたしに怒鳴るのは初めてかもしれない。
そう思ったら――むかついた。
「どうしてあたしが怒られるの!!? 玲くんもあたしも身体張ったんだよ!!? っていうか、玲くんそんな真似しないから!!! 紳士だから!!!」
「玲だってれっきとした男だ!! 惚れた女と同じベッドにいて……第一、お前についてるキスマークの数、尋常じゃないだろうが!! それでフリかよ!!?」
「須臾のだって尋常な数じゃなかったわよ!!! 玲くんはね、節度があるの!!! 今回はたまたまハードだっただけで!!!」
「今回限定じゃないだろう!!? 俺の前でしたじゃないかよ、ねっとり絡み付いて離れないようなディープキス!!! 演技であんなの出来るか!!? どうせ煌ともやってんだろ、2ヶ月前から!!! どうしてあいつらは受け入れるんだよ!!?」