あひるの仔に天使の羽根を
 

「俺とだって、したじゃないかよ!!!」


それは泣きそうな顔で。


「何で俺だけなかったことにするんだよ!!! 俺のが物足りないっていうのなら、してやるよ。玲より煌より、もっともっと激しく、もっともっと深く!! 遠慮や手加減なしの…もう俺しか考えられない強烈な奴をな!!!」


そう唇を強引に押し付けようとしたから、あたしは両手の掌で櫂の唇を押し返した。


「何で玲くんや煌と競い合うのよ、あんたの矜持にあたしの唇を巻き込まないで!!!」


「は!!? 矜持!!?」


「そうじゃない!!! 前に言ってたでしょ、どうして自分は後発なんだって!!!」


「!!!」


「あたし櫂の何!!? いいように利用される、使い捨ての道具!!?」


ぼろぼろぼろぼろ、あたしの涙は止まらない。


櫂の目は見開いたまま、動きは止まっていて。


「あたしがあげた香りは消すくせ、須臾の匂いはべったりつけて!!! 由香ちゃんでも名字で呼ぶのに、須臾には名前で呼んで!!! 他の女は拒否るくせに、須臾だけは隣において!!! どうせ最初から一目惚れだったんでしょ!!! あたし判っているんだから!!! 須臾の術のせいにするな!!!」


「一目惚れ!!? 何だよそれは!!!」


苛立ったような攻撃的な眼差しと怒声に、怯えることなくあたしも言い返す。


「須臾が綺麗だって…口に出して褒めて、じっと見つめていたじゃない!!!」


「は!!?」


慮外だといいたげなその顔に、無性に苛つく。


「宴の時よ!!! そりゃああたしは緋狭姉の妹とも思えないくらい不細工で、いくら着飾っても滑稽の極みだったかもしれないけど、わざわざあたしの目の前で須臾ばかり褒めなくてもいいじゃない!!! 確かに須臾は綺麗だよ、可愛いよ、美少女だよ!!! しかも家柄もいいお嬢様で、紫堂の御曹司とはお似合いかも知れないけれど、だけどデリカシーなさ過ぎ!!!」


「……」


「須臾から櫂を頂戴って言われた時、全ては櫂次第だと…出来るもんならやってみろってせせら笑ってやった直後、どうして簡単に須臾のものになっているのよ、櫂の馬鹿あああ!!!」


もうあたしはわんわん大泣きだ。

< 1,030 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop