あひるの仔に天使の羽根を
不敵な様も悠然とした王者の振るまいも、全く見られない怯懦な櫂。
あたしの顔色を見て、その存在理由があたししかない櫂。
そんな…あたしだけの櫂が…小さく震える櫂が、あたしを見ていて。
そんな櫂が欲しかったんでしょう?
「違う……」
だから寂しかったんでしょう?
「櫂じゃない……」
違和感。
不一致感。
認められない、あたしの心。
まるで、8年前に病室に初めて訪れた櫂を見た時のよう。
「それは櫂じゃない」
そう首を振って否定したあたしに、櫂は少し笑った。
「じゃあ――
俺ってどんな奴?」
櫂は……。
「お前の望む紫堂櫂はどんな奴?」
あたしにとっての櫂は……。
「言えよ。その通りにするから…」
覗き込んでくるのは、懇願するような頼りなげな漆黒色。
違う、あたしの櫂は――。
「永遠にあたしだけの…『気高き獅子』でいて!!!」
8年後の櫂。
それ以外にない。
紫堂櫂は、此の世に1人しかいない。