あひるの仔に天使の羽根を
 

「どんなにふてぶてしい仏頂面の自信家でも、何でも絶対完璧にやりこなす嫌味な男でも、見かけによらず女に盛るサルでも……」


「……おい」


青筋立てて怒るな、知らん。


「8年前の約束を忘れずにいてくれば、今の櫂のままでいい」


「"で"いいって何だよ」

「"が"いいですッ!!」


凍てつくような冷たい視線を向けられ、慌ててそう訂正すれば、櫂は嬉しそうに微笑んだ。


「俺の"永遠"は、12年前から芹霞だけのものだ」


その言葉に、あたしの中の蟠(わだかま)りが、すっと瓦解した。


単純で、馬鹿なあたし。


紐解けば、ただひたすら…櫂が断言するそのひと言だけを待ち望んでいたらしい。


そのひと言が向けられただけで、櫂から離れなくてすむんだとほっとしているあたしがいて。


櫂を心底信じ切っているあたしがいて。


櫂から離れるって玲くんにも啖呵切ったのに…どう後で言い訳しよう。



「もう…大丈夫か?」



あたしは怪訝な顔を向ける。



「もう、俺に恐怖しないか?

もう……熱さに痛みはないか?」



そう言われれば。


心は至って静かだし、熱さなんて微塵もない。


熟睡後の覚醒のように、酷くすっきり爽快な気分で。


「え、何で?」


「俺に対して、積もり積もった不満が爆発したんだろう。

……俺最低だよな。お前をここまで追い込んでいたなんて」


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