あひるの仔に天使の羽根を
ちょっと待て。
あたしが櫂を恐れた原因って……不満?
…そんな理由!!?
櫂はそれが判って…喧嘩腰に挑発して、あたしに本音を言わせようとしたの?
「ん? どうした?」
いや…櫂だって、あたしに対する不満は溜まっていただろう。
櫂が、玲くんや煌とのことに拘っていたなんて、今初めて知り得たことで。
櫂も、同年代の男みたいに女に盛る生き物だっていうことも判ったし。
正直、気分は全然良くはないけれど、だけど少しだけ…神聖なる紫堂の高みだけではなく、あたし側の世界にも染まった部分があるということが判った点だけ、安心したりしてる。
まだまだあたしも櫂も理解が足りないんだね。
喧嘩してでも、やっぱり色々なことを櫂と話し合う必要があると実感する。
もっともっと、あたしの知らない櫂を見てみたい。
もっともっと、櫂の知らないあたしを見せてみたい。
それはきっと、8年前以上の新たな一面のはずだから。
今回だって、あたし自身、あたしがこんな言葉で泣き喚くなんて思ってもいなかった。
そして改めて。
泣いて騒いで言い放った、恥ずかしい自分の言葉の数々を思い返せば。
「………」
須臾への嫉妬。
それ以外の表現が見つからない。
"あたしだけを見て"
"あたしだけの櫂でいて"
醜い女の嫉妬そのものだ。
昼ドラに出てくるような…あたしがうんざりするような…そんな嫉妬の台詞。
そんな嫉妬を持っていたということを、櫂は"理解"しちゃったの!!?
ち、違うよね?
普通に、幼馴染としてのただの独占欲だと、思ったよね?
変な風にはとっていないよね、そうだよね、優秀頭脳の櫂くんだもん。
青ざめながら…無理矢理空笑いをしていたら、
「理由が判れば、こんなに嬉しいことはない。
もっともっと…"女"見せて、貪欲に激しく俺を欲しろよ?」
明らかに意味あり気過ぎてて、絶対普通に捉えていないよ、この人。
上から目線の揶揄したような瞳が、嬉しそうにきらきらと。