あひるの仔に天使の羽根を
「やはりお前か。芹霞を殺そうとしたのは。
判っていても…忌々しい」
瞬間、空気がびりびりと震えて。
櫂様の手に闇の力が凝集しているのを感じて。
天井の電光灯がばりんばりんと音をたてて割れ、闇が新たな糧を櫂様に与える。
「いっそここで、嬲り殺してやろうか。
随分と…虚仮にしてくれた、その礼をたっぷりしてやるぞ?」
殺気。
紛れもない殺気。
櫂様は攻撃的な面があるけれど、基本彼の自制心が働いた上でのものだ。
それが働かず、剥き出しの情を見せるのは…芹霞さんを介した時だけ。
事態を察した玲様が動く寸前、芹霞さんが身体全体で櫂様の手に縋りついた。
「駄目!!!」
芹霞さんは必死の形相で、頭を横に振って。
「あたしは生きてる。大丈夫だから、殺そうと思ったら駄目!!!」
「しかし…」
「櫂!! あたしなんかの為に、自分を汚したら駄目!!!」
櫂様の目が細められる。
「櫂。あんたは『紫堂櫂』なの。判って!!!」
私や玲様が出なくても、芹霞さんはきちんと判って動いてくれる。
櫂様にとって何がベストか、彼女はきっとそればかり考えているのだろう。
櫂様の幸せを、心から願っているのだろう、昔も今も。
……羨ましく思うくらいに。