あひるの仔に天使の羽根を
「え? え? 何で!!?」
わけが判らないといったように、此処に居る人物の顔を順次見比べていくのは芹霞さん。
「だから――
樒は須臾の娘なんだ」
櫂様の声に、芹霞さんの表情が固まった。
「厳密に言えば違うな。
樒は須臾の継子だ。血の繋がりはない。
外貌的な問題から、逆転した関係を演じていただけのこと。
だから俺達は、数年で情報を閉鎖させた各務の現当主が、各務翁の息子ではなく…樒だということを…何よりそんな存在すら知り得なかった」
がらがらがら。
そんな音をたてて芹霞さんが崩れそうになる。
それを、後ろから支えたのは玲様で。
あわあわと慌てて、その心情を目だけで訴えた芹霞さんに、玲様は余裕の笑い顔を見せる。
「ん? 樒の姿からしておかしい?
此の土地の"特殊性"と、上手な厚化粧故に何とか隠せていたんだね。
だけどシュブ=ニグラスを祀るサバトで、主役の須臾に樒の精力まで持って行かれて、"本来"の姿に戻っちゃったみたいだ。まあ…それでも平気な雰囲気思えば、"何か"によって回復出来る確信があったんだろうけれどね?」
含み持たせて、玲様は微笑んだ。
きっとその"何か"が始まるのはもうすぐで。
だからこそ須臾は戻ってきたわけで。
「でもでもでも!!! おかしいよ、"本来"って何!? どうしてあたしとそんな変わりない歳の須臾の子供が、こんなに歳取っているの!!? 社会通念上、それはありえないことでしょう!!?」
くつくつくつ。
それは櫂様の笑い声。
「時間軸の歪み…この場合は原因は至極簡単。
ウェルナー症候群。
近親婚を繰り返すことによって遺伝子的な異常を引き起こされたと推測される……簡単に言えば早老症」
そう、櫂様が皮肉気な笑いを見せた先――樒という名の女は気まずそうに俯いていて。
「20歳に至らずして、病理的な老人化が進む」
やけにゆっくりとした、櫂様の声が響いた。