あひるの仔に天使の羽根を
「須臾の歳は変わっていないはずだ。恐らく…16歳のまま、少なくとも4.5年は経っている。彼女だけが"それ"に堪えられ、守護石で闇を操れる…適合種だったんだ。須臾以外の先妻のように、"病死"という大雑把な理由で壊れることなく…いや、壊れてはいるのか」
「!!!?」
くつくつくつ。
櫂様は嘲るように笑い続ける。
「須臾に関しては、"それ"の補助があのピンク色の部屋。幼児化しそうな微睡む色調は、停滞或いは退行を促すものだ」
同時にそれは、須臾自身が抱く、飽くなき"美"への欲求とも重なり、己の永遠なる"美"の為に嬉々としてあの部屋に染まっていたことだろう。
「だけど…さ、結局ソレは錯覚というか…精神的に作用するものでしょ? だけど現実、須臾の肉体は若いんだよ? 部屋の内装で若返るなら、世は皆、若返りした人間で溢れているよ!?」
「それは此の地の"特殊性"故に。"それ"こそが各務翁との真の狙いでもあった。だからこその"約束の地(カナン)"、此処は時を停滞させる土地だ」
櫂様の口調は、至って揺るぎなく、悠然としている。
「今…此の地には、"早送り"か、"停滞"かの2パターンしか存在しない。唯一の除外者は……昨日いなくなった」
芹霞さんは、理解出来ていないというような涙目で櫂様を見ていて。
櫂様の不敵な様は、その考えが理路整然と纏まり、既に結論として固まっていることを示した。
多分――
玲様も同じ考えだろう。
そして私も――
「唯一の例外者だった千歳が……"停滞"、死者の仲間入りだ」
同じ考えだ。
そして櫂様は、底冷えするような漆黒色の瞳を須臾に合せる。
「須臾、お前は此の地で…
――何を産んだ?」