あひるの仔に天使の羽根を
バアアアアン!!!
その時、タイミングを見計らったかのように大きな音が響く。
前方を見れば、今まで私達がいた部屋の分厚いドアの木板が、まるで爆発したかのように粉砕され、そこから私達のいる廊下に躍り出たのは、宙で身を捻って着地した煌。
部屋の内部を睨み付けている。
「煌、由香ちゃん達は!!?」
玲様が心配すれば、
「何とか…俺の結界を張ったから大丈夫だ」
警戒心を解かぬ鋭い眼差しを、睨み付ける一点から微塵も動かさず、低い声音を放つ煌の目の前に、ゆっくりと姿を現したのは――
「司狼!!?」
金色の髪。
金色の瞳。
陽斗をそのまま小さくさせたような少年。
小柄ながら、その威圧感は…まるで手練れた刺客のように。
瞬時に警戒に身を固めた櫂様と玲様…そして私。
ああ、また私の黒曜石は顕現出来ないようだ。
「まったく…まだ背中痛いよ、あの女背骨をぽっきり折りやがって。さすがの僕でも時間がかかったよ。……絶対許したくない。だけど…仕方が無いよね、命令だもの」
金色の瞳が残忍な光を灯して。
纏う殺気が、常人ではないことを告げる。
大体――折れた背骨を回復させる普通人などいない。
出来る人間はもっと特殊な肉体を持つ……例えば煌や、そのオリジナルだという陽斗で。
「……。…緋影?」
思わず漏らしたその問いに、司狼は顔を酷く歪ませて。
「あんた達揃いも揃って、緋影なんかを持ち出すなよ。あの女の余計な提言のせいで、僕達はこんな扱いを受けるようになったんだから」