あひるの仔に天使の羽根を
「藤姫か……。
生前、少なからず関係していたようだな」
片方の口角を吊り上げた櫂様に、司狼は忌々しげに舌打ちをして。
「煩いな、そんなご大層な名前で呼ぶなよ、紫堂風情が」
その…自尊心に溢れた物言いは、かつての陽斗を彷彿させる。
男の矜持に拘り続けた、あの道化師に。
「そんなことより、"聖痕(スティグマ)の巫子"。準備は出来たけど?」
すると、促された須臾は……満面の笑みを浮かべて。
「あははははははは」
狂ったように、その場でくるくると回り始めた。
狂喜乱舞。
まさにその表現が相応しい。
くるくる、くるくる。
狂って回り出すのは、本当に須臾だけなのか。
そんな一抹の不安さえ覚えさせる須臾の行動に。
呆気にとられたような怪訝な視線が向かわれる中、櫂様だけは確信めいた冷たい面持ちで。
まるで以前目にしていたかのような、そんな妙な冷静さ。
寧ろ…だからこそ、誰以上に警戒している風にも受け取れる。
そして須臾は動きをやめ、舐(ねぶ)るように芹霞さんを見ると、ぱちんと右手の指を鳴らす。
途端。
「う……?」
突如芹霞さんが顔を歪め、その身体をくの字に折り曲げた。