あひるの仔に天使の羽根を


そして――


「あああああああ」


芹霞さんは苦悶の声を上げ始め、血色の悪い顔から尋常ではない程の汗が滴り落ちて。


「どうした、芹霞!!?」


櫂様の顔が強張る。

玲様の顔が青ざめる。

駆けつけた煌の目が見開く。


芹霞さんの黒い痣……緋狭様の言う"邪痕が"、まるで植物の異常生長のように、目に触れられる四肢の先端や首までに、勝手にうねうねと伸び拡がっていく。


「お前か、須臾!!!」


玲様が、ドスのきいたような低い声を発して、須臾に掴みかかろうとすれば、


「――…くッ!!!」


玲様の身体は、不自然な角度で大きく後方にぶれて。


「どうしたよ、玲!!!」


「闇の盾に弾かれる。櫂、須臾の闇の力を解除しろ!!!」


「……!!! これは……この力は……」


「無理だよ?」


顔を顰めて焦慮の色を顔に浮かべた櫂様に、司狼がくすくすと笑った。


それは邪気に溢れた無邪気な笑い。


「たかだか1個ぐらいで、全ての闇を制した気にならないでよね。ここは10個あるんだし、1つは損傷しかかっているとはいえ、点と点を結ぶ線に闇の力が、ようやくきちんと走り始められた今、さらに闇は相乗効果発揮して拡大している。生身で操ろうとなど、物理的に無理な話さ。呪詛に転換して紫堂に向いていないにしても、その勢力の凄さは、身に染みていると思うけどね?」


「やはり…"KANAN"は…」


「あれ紫堂、今頃気づいたの? 情報では、2ヶ月前も同様なことを、あの女しでかしてたはずだったんだけれど。まあ…実験的な、規模の小さいものだけど」


そして司狼は、顔に残忍な笑いを浮かべて。


「阿鼻叫喚。生きる為に殺すか、殺さないために死ぬか。究極の選択で、人間が選ぶものって同じだよね。唯一の例外は漆黒の鬼雷だったけどね。生き残る為に味方を躊躇無く殺したっていう奴が、たかが無力なお姉さん1人助ける為に、死のうとしたのは驚かされたけれど」
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