あひるの仔に天使の羽根を
私は、唇を噛みながら司狼を見据える。
何が判る。
お前に、私と芹霞さんの何が!!!
「だけどそれ以外は皆、糧となってくれたよ。地下の魔方陣を結びつける、闇の経路にね」
「蠱毒(こどく)、か」
「そういう名前なの? 人間の恐怖や絶望感を闇の力に変換する作業のこと。馬鹿だよね、殺されるために選ばれた外界の奴らの悦びよう。そして、女に虐げられて鬱屈したストレス発散に…命かかっていること知らない、此処での奴らのあの楽しみよう。ただのゲームなんて軽んじて、真相を誰も知らないなんてさ。
……ああ、ごめんね? お姉さん苦しがっているのに、お喋りしちゃって。
君達の目、ぞくぞくするね。ふふふ、そんなに怖い顔しないでよ。お姉さんは、まだ大丈夫だよ? お姉さんは"聖痕(スティグマ)の巫子"と対になる、穢れた…烙印の持ち主だ。"聖痕(スティグマ)の巫子"の意思1つで、断罪は執行される。
どうするの、紫堂。"聖痕(スティグマ)の巫子"の望みは判っているよね?」
櫂様は…冷たい漆黒の瞳を須臾に向けて。
「俺は儀式などしない。お前と"永遠"は誓わない」
「そんなの許さない!!!」
威嚇するように言い放ったのは、必死な形相の老女。
歪んだ鬼女の如く、かつての当主の威厳を身に添えたまま。
しかし須臾に一喝されて、後方に退く。
「そうよ、許さない」
それでも、その義母だと言う女は、娘に同調して笑う。
「儀式は予定通り。拒めば、その女…死んじゃうわよ?」
「!!!」
「そんな目をしても無駄よ。櫂だって判って居るでしょう? その女は…1度闇に沈んだことがあるの? そのおかげで狂死しなくてすんでいるみたいね。
だけど邪痕が運の尽き。私にとっては嬉しい誤算。殺せは出来なかったけれど、邪痕のおかげで十分嬲ることができる」
邪な笑み。口許は蛇の様に嫌らしく曲げられた。